燃料電池車は普及するか?

電気自動車はもはやお通夜モードで、次世代のエコ自動車として燃料電池車が俄然注目されています。

価格も500万円以下とかなり低価格での発売が決まり、一気に市場も動き始めました。

この燃料電池車、本当に普及するのでしょうか?
ちょっと予測してみましょう。

新規技術が普及するかのまず第一関門は、絶対に回避不可能なボトルネックが存在するかです。
電気自動車の普及を妨げたのは電池でした。電池はどんなに頑張っても高いエネルギー密度を達成できず、航続距離を伸ばすには大量の電池を搭載しなければなりませんでした。充電には時間がかかり、何度も充電を繰り返す内に性能が劣化してしまいます。

燃料電池車にとって最大のボトルネックは何でしょうか?
水素の軽さです。
35MPaというものすごい圧力をかけても、水素は1リットル辺りわずか30グラム程度しかありません。
これでは貯蔵できるエネルギー密度が小さく、航続距離を伸ばすには大きなボンベを搭載しなければなりません。
試作車は180リットルくらいの特大のボンベを搭載して対応していますが、今公表されている300キロとか500キロというのは、条件がいい場所での話です。現実的に街中を走ればその半分でしょう。
高圧に圧縮する方法もありますが、それに比例して危険度や設備費用が増大するため限界があります。
床下のボンベが邪魔で室内空間が狭くなったり、乗降時に段差が大きくなることも避けられないでしょう。

また、床下に大きな空洞があるようなものなので、乗り心地の面でも厳しいかもしれません。
一般に自動車は重心が低いほど挙動が安定します。そのためエンジンなどの重量のある物をできるだけ低い位置に配置するように設計しますが、ここに大きなボンベがあるとそのような設計ができません。

結果、ちょっとした凸凹道を走っただけでも酔ってしまうという乗り心地になってしまいます。

価格については、プラチナが高いといった話も聞きますが、逆に言えばそれ以外にお金がかかる場所がないということです。普及が始まればあっという間に下がると思います。今のプリウスくらいまでは簡単に下がるのではないでしょうか。
技術的なハードルはそれほど高くないでしょう。ガソリン車のエンジンに比べればノウハウの蓄積は必要なく、どんな企業でも簡単に作ることができます。逆に家電製品のように、新興国が価格メリットを活かして業界を席巻する可能性も高いと思われます。

危険度どいう観点でいえば、水素の可燃性はそれほど危険ではないでしょう。
ガソリンに比べて危険度が大きく増すことはないと思います。

危険なのはむしろ圧力の高さでしょう。30MPaというのは1㎠辺り300キロの力が加わるということです。ボンベの亀裂に手をかざせば穴があきますし、近くに金属片があれば凶器となって飛んでいく。それほどの圧力です。
また、小さな亀裂から破断が起こり、最終的に破裂する可能性もあります。
酸素ボンベに亀裂が入り、破裂するという事故がありますが、同じように水素ボンベにも破裂のリスクがあります。ボンベは頑丈なのでそう簡単に亀裂が入ったりはしないものですが、自動車に搭載して交通事故に遭うとなれば話は別。衝撃で亀裂が入る可能性は大いにあります。

さて、公式に安全性の説明はどうなっているかというと。
「水素タンクは衝突時に衝撃を受けにくいように配置してあり、衝突実験ではタンクの損傷はありませんでした。もし水素が漏洩したとしても、空気中で瞬時に離散するため発火の危険性は少ないと考えられます。」
タンク破裂のリスクを意図的に隠蔽していると言われても不思議じゃないくらい乱暴な説明です。

以上、総合するとこんな感じでしょうか。
価格:今のガソリン車と遜色ない程度までは下がる
航続距離:ガソリン車より多少短い
乗り心地:不整地面走行時の挙動は悪化する。騒音は少ない。
安全性:充分に評価されているとは言えない。少なくとも、市販後一定期間は様子を見る必要がある。

課題はありますが、その一つ一つは何とかなると思います。
乗り心地はバラストを積むという本末転倒ですが効果的な方法がありますし、安全性も多少危険が増す程度でしょう。航続距離も普通に300キロくらいは走るでしょう。

電気自動車のように決定的なボトルネックは存在せず、水素ステーションの普及で一気に広がる可能性が高いと思います。時期はおそらく東京オリンピック頃。

確率で言うならば6割から7割といったところでしょう。